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 契約は、契約当事者の意思が合致することによって成立します。したがって労働契約も企業と従業員との間で「この条件で雇用したい」という使用者の意思と「この条件で働きたい」という労働者の意思が合致することによって成立します。

条件を不利益に変更することは可能か?

 このように契約の基盤が両当事者の意思の合致にある以上、いったん成立した契約について、当事者の一方が相手方の同意・了解なしに契約の内容を一方的に変更することは許されず、契約内容を変更するには相手方の同意を要します。

 したがって、労働条件を変更するには、労働者から個別に同意を得なければなりません。

 ただし、この点については、労働契約法12条に留意する必要があります。すなわち同条は、就業規則で定められている事業場において、当該就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約はその部分につき無効とする旨が定められていますので、就業規則を下回る労働条件で合意を取り付けても同条違反となり無効となります。したがって、就業規則が適用されてきた労働者の労働条件をそれより下回る条件に引き下げるには、同意を得るだけでは足りず、あわせて就業規則変更の手続きが必要となります。

 これに対して、事業場に労働組合が組織されていれば、その労働組合と交渉し、労働協約を結ぶことにより原則、引き下げも可能となります。この場合は、個々人から個別に同意を得なくても、労働契約の内容は労働協約の内容に変更されます。さらに労働協約の当事者たる労働組合が事業場の労働者の4分の3以上を組織する多数組合である場合には、当該事業場に勤務する未組織労働者も、同種の労働者である限りは、当該労働協約の内容に拘束されます。

就業規則の定めと雇用契約の関係

 労基法は、常時10人以上の労働者を使用する事業場に対し、賃金、労働時間等、一定時効を必要的記載事項とする就業木曽君も作成を義務づけるとともに、作成・変更された就業規則を労働基準監督署に届け出ることを義務づけています。

 このような就業規則の法的性質や、当事者に対する拘束力が発生する根拠については諸説ありますが、就業規則の内容に個別的な同意を与えていない労働者であっても、就業規則の定める内容が「合理的なもの」である限り、それが個別的な「労働契約の内容」となって当事者を拘束する旨、判例で示されています。最高裁は、就業規則の変更による定年制適用範囲の拡大について、「就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っている」としています。

つまり、就業規則の内容が合理的なものであれば、個別に同意していなくても拘束力があるということになります。

従来の業務のままで賃金額だけ引き下げられるか?

 従来と同一の業務に従事させながら賃金額のみを引き下げるという場合、通常に労働に対する対価としての賃金を継続的に一定額減額するものであり、労基法91条の減給に該当します。したがって、上限規制を超えた部分につき、労基法違反が成立します。たとえば、将来にわたって、本給の10分の1を減ずる旨の降給は、従前の職務に従事させながら賃金のみを減ずる趣旨であれば、減給の制裁として労基法91条に抵触します。

 これに対して、いわゆる年俸制等、次期の賃金が当期の成果等に左右され、不確定な状態にある賃金制度では、個人の業績等に基づく考課の結果により次期の賃金額の上下が予定されている場合に、その制度に基づいて賃金額が引き下がったとしても、この場合は労基法91条に抵触しません。

格下げや降職を伴う賃金の引き下げは?

 格下げ、降職に伴う賃金額の変動については、「交通事故を惹起した自動車運転手を正妻といて助手に格下げし、従って賃金も助手のそれに低下せしめるとしても交通事故を惹起したことが運転手として不適格であるから助手に格下げするものであるならば、賃金の低下は、その労働者の職務の変更に伴う当然の結果であるから法91条の制裁規定の制限に抵触する者ではない」とされています。

 ここでのポイントは、

①従前の役職を全うできない(職務不適格)という判断による職務の変更(降職ないし降格)であること
②制度上(降職ないし格下げに伴う)職務の変更と賃金とが直接リンクしていること

したがって、職種や職務内容が変更されることに伴い、当然に賃金が変わる場合は労基法91条とは無縁ということになります。

 ただし、実務的には、一般に賃金の減少を伴う配置転換は予定されていないことが多く、したがって、職務の変更に伴う賃金減額は、労働者の同意を得て行うか、契約上の根拠がある場合に実施可能と考える方が良いでしょう。

また、部長から次長への格下げなど、企業の人事権に基づく役職の変更(降職)に伴い、役職手当が減額となることも企業の人事権行使の結果であり、減給制裁とは異なります。

 これに対して、職務内容と賃金とが直接連動していない制度(純粋な職能等級制)では、従来の格付けの見直し、すなわち「従来の格付けが高すぎる」という判断に基づき、従来格付けされていた職能等級自体を見直すという場合以外は、労基法91条に抵触します。

まとめ

 賃金は、労働条件の内容において非常に重要な部分です。そのためそれを引き下げるには、①個別の同意、②就業規則がある場合には、就業規則の変更手続きが必要となる場合もあるということになります。

 また、賃金引き下げに応じない従業員を解雇できるかいうことについては、基本的に労働条件の変更の申し込みとともに、解約告知を併せた変更解約告知となります。そしてこの労働契約の解除は、整理解雇に準ずる厳しい要件が課されます。

いずれにしても一方的に労働条件を不利益に変更することはできず、変更する必要がある場合には、しっかりとした話し合いと手続きが必要となります。