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 労働契約は、企業(使用者)の「この条件で雇用したい」という意思と、「この条件で働きたい」という労働者の意思が合致することによって成立します。

そのためこの一旦成立した契約について、当事者の一方が相手方の同意や了解を得ることなく、一方的に変更することは許されず、契約内容を変更するためには相手方の同意が必要となります(労働契約法8条)。したがって賃金等の労働条件を変更しようとする場合、原則として労働者の個別の同意が必要となります。

職務や役職等を変更せず、賃金額のみ引き下げられるか

 従来と同一の業務に従事させながら賃金額のみを引き下げるという場合には、通常の労働に対する対価としての賃金を継続的に一定額減額する者となりますので、労基法91条の減給に該当します。

労基法91条では、「 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。 」とされています。

つまり、就業規則の相対的必要記載事項である、制裁に関する定めが必要であり、次にその制裁を行う根拠が必要となります。

 また、将来渡って、本給の10分の1以内を減ずる旨の降給については、従前の職務に従事させつつ賃金額のみを減額するのであれば、労基法91条に抵触します。

格下げ、降職に伴う場合の賃金額の引き下げは

 次に格下げや降職に伴う賃金額の変動(引き下げ)の場合ですが、①従前の役職を全うできない(職務不適格)という判断による職務の変更(降職ないし降格)であることと、②制度上(降職ないし格下げに伴う)職務の変更と賃金とが直接リンクしていることが必要です。したがって、職種や職務内容が変更されることに伴い賃金が変わる場合には、先の労基法91条とは関係がなくなります。

 ただし、これに対し、職務内容と賃金とが直接連動していない制度(純粋な職能等級制度)では、従来の格付けの見直し、すなわち「従来の格付けが高すぎる」という判断に基づき従来格付けされていた職能等級自体を見直すという場合以外は、労基法91条の制限に服することになります。

配置転換に伴う賃金額の引き下げは

 成績不振のため従来の職務と比較して軽度で責任のない業務に配転し、そのことを理由に賃金をできるかという問題ですが、降格等の要件に該当すれば、その範囲内で賃金額の引き下げを行うことは可能となります。

 しかし、そうでない場合は、賃金体系が職務給など職務内容と連動するような場合でない限り、配点によってその職務が従前より軽減したという理由のみでは賃金を一方的に減額することはできないと考えられます。

 この点についてデイエフアイ事件では、「配転と賃金とは別個の問題であって、法的には相互に関連しておらず、労働者が使用者からの配転命令に従わなくてはならないということが直ちに賃金減額処分に服しなければならないということを意味するものではない。使用者はより低額な賃金が相当であるような職権への配転を命じた場合であっても、特段の事情のない限り、賃金については従前のままとすべき契約上の義務を負っているのである。」と示しています。

 そもそも労働契約上、賃金額は契約の重要な要素であり、使用者これを一方的に変更することができないのが大原則です。したがって、使用者が裁量により一方的に賃金の減額請求権を有するとの主張は、裁判例ではことごとく排斥されています。

一定の役職を解く場合の賃金額の引き下げは

 人事権の行使として、原則行えますが、使用者の指摘する降格理由が事実として存在しなかったり、そのような事実から当該職務を外すべきと判断したことが著しく不相当であれば権利濫用とされる場合があります。

労働者本人の同意がある場合

 本人の同意があれば原則、引き下げることはできます。ただし、その労働者が完全な本人の自由意思に基づいている場合に限られます。仮に業績不振のため賃金額の引き下げが必要ということであれば、会社の現状等を労働者に適切に伝えた上で、同意する、しないの判断は労働者本人に委ねるということになります。

引き下げに同意しない労働者を解雇できるか

 この場合、労働条件の変更の申し込みと労働契約の解約告知をあわせた、変更解約告知の問題になります。これについては労働条件変更の必要性の強弱、労働条件変更に伴う不利益の程度のバランス論となりますが、解雇となると、基本的には整理解雇に準じるような厳しい要件が課せられると考えられます。

変更解約告知について判例では、「労働者の職務、勤務場所、賃金および労働時間などの労働条件の変更が会社業務の運営にとって必要不可欠であり、その必要性が労働条件の変更によって労働者が受ける不利益を上回っていて、労働条件の変更を伴う新契約締結の申し込みがそれに応じない場合の解雇を正当化するに足りるやむを得ないものと認められ、かつ解雇を回避するための努力が十分に尽くされているときは、会社は新契約の申し込みに応じない労働者を解雇することができるものと解するのが相当である。」としています。

まとめ

 賃金は、従業員にとってその会社で働く重要な要素となります。そのため、業績不振によって賃金を引き下げたいとする使用者が一方的に引き下げを行うことはできません。そのほか、降格や配置転換を行う場合にも、単に一方的に行うのではなく、従業人にその必要性や現状を話した上で行うことが重要だと考えます。