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 給与計算事務を簡略化するために、残業代を定額で支払う、固定残業代を用いられる会社もあると思います。筆者としては、固定残業代は給与計算事務を簡略化するためのものではなく、労働者側に一定の賃金水準の支払いを確保するという目的で導入するものとして有効と考えます。つまり、固定残業代を支払っていれば、人件費の削減につながるといった考え方ではなく、また給与計算事務が簡便化されるといったことはないと考えた方がいいと考えます。

固定残業代が法的に認められるためには

 残業代(時間外・休日労働の割増賃金)の定額払い(固定残業代)が労基法上適法であると認められるためには、次の①~③の3点が労働条件明示書(労働契約書)に明示されていなければ、なりません。

①毎月の基本給がいくらか

②毎月の固定残業代が何時間分、いくらであるか

③上記②の時間を超えて残業した場合には、超えた時間分について、法定の割増率で計算した割増賃金を、追加して支払うこと

①~③を踏まえた記載例は次のとおりです。

●毎月の固定賃金額30万円

 ・固定賃金額のうち基本給 25万円

 ・固定賃金額のうち固定残業代 5万円(ただし、〇〇時間分の時間外労働および〇〇時間の休日労働の割増賃金である)

●その月の実際の時間外労働および休日労働の時間数が上記の時間数を超えた場合には、別にその分の残業代を追加して支払うものとする

固定残業代の違反例

①その従業員がい定額残業代で予定している残業時間数を超えた時間数を残業した場合であっても、追加の残業代を支払わない。

②「基本給に〇〇時間分の割増賃金が含まれている」と主張するだけで、そのように計算、支払するなどを実行していない。

 このことからも固定残業代の制度を導入したからといって、労働時間を把握する必要がなくなることも、給与計算の際に、時間外労働時間数から残業代を計算する手間が省略されるわけではありません。

固定残業代は認められるか

 ここで「残業手当の定額払い」(固定残業代)とは、実際の時間外・休日労働の時間数と関係なく、毎月、決められた残業代を支払うというものです。

 基本的に、使用者と従業員との間で合意が成立していれば、残業手当(時間外・休日労働の割増賃金)の定額払いは、労基法上、違法となりません。しかし、それが認められないケースがあります。例えば、残業手当としてあらかじめ、1か月に3万円が定額で支給されているとします。つまり、その従業員は、残業時間がゼロの月であっても、残業代として3万円をもらえることになります。これは一見会社にとって不利なだけにのように見えますが、従業員が残業しないようになり、実労働時間が短縮される効果が期待できます。

 しかし、実際には3万円相当以上の時間数の残業をしていて、その分の残業代が支払われない場合、それは「賃金の全額払いの原則(労基法24条)」から、違法となります。残業手当が定額になっていても、それ以上の時間の残業をした場合、不足した差額分は支払わなければなりません。

 つまり、使用者が、残業代を不当に減らすために残業代の定額払いを導入することは禁止されています。

営業手当は認められるか

 営業手当やセールス手当といった名称で、実質的には残業手当の定額払いを行っている場合にも注意が必要です。営業手当とは、「外食費、駐車違反等の反則金等外勤に伴う様々な支出に対する補償」となるものです。その中に残業代相当という意味合いを含めることは問題ありません。ただし、ここでもやはりその定額が実際に行われた時間外・休日労働の時間数にもとづく法定の割増賃金額以上の金額でないと労基法24条違反となります。

残業時間が少ない月に定額で残業代を支払っているからといって、残業時間数の多い月に、少額の定額残業手当の支払のみで済ませることは認められません。

みなし労働時間性の場合はどうか

 一方で、労基法に基づく「みなし労働時間性」の場合は、あらかじめ定めた「みなし労働時間」にもとづいて、時間外労働手当の支払いの有無を決めるものとなります。

 労基法の関係条文中に「労働時間の算定は、実際の労働時間にかかわらず、労使協定で定めた時間も労働をしたものとみなす」とされています。この場合であれば、例えば、労使協定で定めたみなし残業時間数を2時間としてあれば、実際の残業時間がたとえ4時間の日があっても、2時間分支払えばよいということになります。

固定残業代の注意点は

 残業代を含んだ賃金の支払額を決めてある労働契約は、使用者と労働者の間で誤解からトラブルを生みやすいものです。このような労働契約を締結する際には、次の点に注意して、行います。

①定額残業手当は何時間分の時間外労働に当たるのか?

②毎月支払われる賃金総額のうち、内訳の基本給と定額残業手当は、それぞれいくらなのか?

③残業手当はどのように計算されているのか?

④上記③の時間を超えて残業した場合には、その分について法定割増率以上の残業代が追加して支払われるのか?

また、これらの事項は、文書で明確に契約しておくことが必要です。後から「残業手当が支払われない」といった労使間トラブルになったときにも文書に基づいて判断することができます。

適法が定額残業代制度を導入しているのであれば、雇い入れの最初の段階で、双方の条件として、確認をしておくことが必要です。

割増賃金部分を時間外労働時間数で示すだけでは不十分

 最近の判例から見れば、使用者が「基本給には〇〇時間分の割増賃金が含まれている」と主張する例が見られます。

 毎月の基本給、手当中に割増賃金が含まれているというためには、基本給、手当中の割増賃金部分を明確に区分しなければなりませんが、その区分は金額で示す必要があります。

 基本給30万円の中には、15時間分の割増賃金を含む

と定めた場合には、きちんと計算すれば、割増賃金部分の金額は明確にわかります。

「基本給の中に15時間分の時間外割増賃金を含む」とする場合において、そのような取り扱いと並行して、そのような取り扱いの対象となる労働者全員について上記のような計算をし、対象者の時間外労働時間を把握し、時間外労働時間が15時間を超えたときは、その超えた時間に対しては追加支給するということを実施し、さらには、そのような取り扱いをすることについて規定上の根拠も明確にし、対象労働者に周知していれば、「基本給30万円の中には、15時間分の時間外割増賃金を含む」というように時間数を示しているにもかかわらず、明確に区分していないとして使用者の主張を認めていないが、それは、使用者が単に「〇〇時間分の割増賃金を含む」と主張するのみで、実際には、上記のような計算をしたこともなく、また、対象者の時間外労働時間が15時間を超えたかどうかにもさしたる関心はなく、超えた労働者に対してその分の割増賃金を支払った実績もないと判断される可能性があります。

まとめ

 固定残業代の導入については、これらの点から慎重に進める必要があると考えます。また固定残業代を導入し、欠勤等の欠勤控除を行う必要がある場合などについても制度設計を慎重に検討すべきです。