労働契約も、契約の一形態ですから、一旦契約を締結(就職)してもその後、何らかの理由によって退職したり、解雇されたりといったことがあります。
解雇とは、労働契約を解除することです。解雇については、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇などの種類があります。懲戒解雇は、就業規則等の明文条のルールが必要となります。
普通解雇についても、いくつかもポイントや注意点があります。
労働契約の一方の当事者である労働者の意思に反して、もう一方の使用者野川から労働契約を解除することを普通解雇といいます。
普通解雇には、整理解雇(事業縮小などによる解雇)も含まれます。労働者が解雇されると、収入・所得がなくなり、その後の生活が困窮します。
このため、普通解雇については、次のように法令や判例上の厳格な規制があります。
①労基法上に定める解雇禁止・制限事由に触れていないこと ②労基法の解雇予告制度を守っていること ③労働協約、就業規則、労働契約の解雇関連規定を守ること ④解雇事由に合理性・相当性が認められること(労働契約法16条) |
まず、最初にすべての種類の解雇(普通解雇、整理解雇、懲戒解雇)について法律上で禁じられている、または制限を加えられている事由が次の表です。
1.労働基準法で禁止 ①業務上の負傷・疾病による休業期間、その後の30日間 ②産前産後休業期間及びその後の30日間 ③事業場の労働関係法令違反を労基署等に申告したことを理由とする解雇 ④労働者の国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇 ⑤事業場の労働者の過半数代表者、労働委員会の労働者側委員になること、なろうとしたこと、正当な行為をした等を理由とする解雇 |
2.男女雇用機会均等法での禁止 ①解雇についても男女の差別的取扱い ②婚姻・妊娠・産前産後休業等の請求・取得を理由とする解雇 ③女性の婚姻・妊娠・出産を退職理由とする定め ④妊娠中および出産後1年以内の女性の解雇 ⑤男女労働者の都道府県労働局町への紛争解決援助の申出、調停の申請を理由とした解雇 |
3.労働組合法での禁止 ①労働組合の結成・加入、正当な活動を理由とする解雇 |
4.育児介護休業法での禁止 ①育児・介護休業、子の看護休暇、介護休暇等の申請・取得を理由とした解雇 |
5.公益通報者保護法での禁止 ①公益通報(内部告発)を理由とする解雇 |
上の表で2の③については、男女雇用機会均等法におり、妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者(妊産婦)に対してなされた解雇は無効となります。
ただし、妊娠、出産、産前産後休業の取得その他が解雇理由でないことを、事業主が証明したときはこの限りでありません(均等法9条4項)。
使用者が、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり、療養のために休業する期間及びその後の30日間はその者を解雇することができません(労基法19条)。ただし、事前に労基署長の認定を受けた次の場合は、解雇は有効となります。
①療養開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合、またはその日以降同年金を受けることとなった場合
②天災地変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合
なお、業務上の負傷・疾病、いわゆる労災ですから、通勤途上の災害、通勤災害での負傷・疾病はこの規定に対象外となります。
産前産後の女性労働者が休業する期間と、その後30日間は解雇することが禁止されています(労基法19条)。ただし、天災地変その他やむを得ない事由で事業の継続が不可能となったことを労基署長が認定した場合は、解雇できます。
労働者を解雇する場合、少なくとも30日前に労働者の対して解雇予告するか、あるいはそれに代えて解雇予告手当として30日分以上の平均賃金を支払う必要があります。
予告期間が30日に満たない場合には、その不足日数分の予告手当を日割計算して支払うことが認められています。例えば、解雇予告が15日前になってしまった場合、残り15日分の解雇予告手当を支払えば適法となります。つまり、解雇予告手当を支払った日数分だけ解雇予告の日数を短縮することができます。
解雇予告は、30日前以上であれば、何日前でもかまいませんが、解雇の日がその労働者に明確に分かるように、日を特定しなければなりません。
例えば、「今日から40日以上たった場合」とか、「何月何日までに元請けから仕事の発注がなかった場合」というような条件付きの予告は、解雇予告とはみなされません。
また「工事の終了時」という表現も、実際の解雇の日が工事の進捗によって、早くなったり、遅くなったりしますので、日を特定したことにはなりません。解雇予告手当は、解雇と同時に、事業場で、直接労働者に支払います。
解雇予告も解雇予告手当の支払いも必要がない場合があります。ただしこれについては、厳格なルールがあります。
1.解雇の予告(30日前) 2.解雇予告手当の支払い(30日分の平均賃金) 3.即時解雇(解雇予告も解雇予告手当の支払いも必要なし) (1)労基署長の解雇予告除外認定を受けた場合 ①天災地変その他により事業が継続できない場合 ②労働者の帰責事由による解雇の場合 (2)次の臨時的に使用される労働者を解雇する場合 ①日々雇入れられる者(1ヶ月超えて引き続き使用された場合を除く) ②2ヶ月以内の期間を定めて使用される者 (この期間を超えて継続使用された場合を除く) ③季節的業務に4ヶ月以内の期間を定めて使用される者 (この期間を超えて継続雇用された場合を除く) ④試用期間中の者(14日を超えて雇用された場合を除く) |
解雇に関する規定の記載は就業規則の絶対的必要記載事項です。したがって、労働者が10人以上雇用される事業場では、必ず解雇の事由・手続きなどについて就業規則に規定しておかなければなりません。
労働者が10人未満の事業場は、労基法上の就業規則を作成し、届出するを義務がありません。しかし、解雇をめぐる労使間のトラブルを予防するために、就業規則または労働契約書の中に解雇事由を明確に記載しておくことが望ましいと考えます。
また、労働組合が組織されている会社では、労働協約が締結されていて、その中で解雇の要件・手続きなどを規定している場合は、それに従う必要があります。
しかし、就業規則、労働契約や労働協約に解雇に関する規定がない場合でも、その解雇に合理性・相当性があれば、その解雇は有効とされます。
解雇の合理的な理由とは、誰が考えてもその労働者が解雇されても、やむを得ないという理由が存在することです。また相当性とは、解雇の理由となった事実と解雇という重大な処分のバランスがとれているということです。
例えば、数回遅刻しただけで、解雇するというような場合は、バランスがとれているとはいえません。労働者の非違行為(違反行為)に比べ処分が重すぎると解雇の相当性は失われ、有効とはなりません。
過去からの裁判例の積み重ねにより、「解雇権濫用法理」というものが確立され、労働契約法のなかに盛り込まれています(労働契約法16条)。それに照らし、合理的な理由・相当性のない解雇は、無効とされます。
労働契約法16条(解雇)
「開国は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
解雇権濫用の法理でいう解雇の合理的理由と相当性、つまり、その解雇は客観的にみてやむを得ないと認められるものの例として次のような場合があります。
①労働者が働けない、または適格性を欠くとき ・本人の身体又は精神に障害があり、業務に耐えられない ・勤務成績、勤務態度が著しく不良で就業に適さない ・重要な経歴の詐称により会社と労働者の信頼関係が損なわれた |
②経営不振、合理化により職種がなくなり、他職種への配置転換もできないなどの理由により人員整理が経営上十分に必要性があるとき |
③重大または悪質な服務規律、企業秩序に違反する行為があったとき |
これらのことを踏まえておかない場合は、解雇が無効とされる可能性が高くなります。
①30日以上前に解雇予告・または30日分の解雇予告が支払われていない場合
②業務上の負傷・疾病、産前産後の休業期間、その後30日間の解雇禁止期間中の解雇の場合
③労働者が自社の労基法、最賃法、安全衛生法等の違反を労基署に申告したことを理由として解雇した場合
これらについては、労働基準監督署の監督官による臨検監督や送検等の対象となりますので、注意が必要です。