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 政府が推し進める、副業・兼業ですが、現在の労働法制においては、現状ままでは進んでいかないため、厚生労働省労働政策審議会で議論が進められています。

過去の裁判例においては、労働者が労働時間以下の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であり、各企業において、それを制限することが許されるかは、労務提供上の支障がある場合等とされています。

副業・兼業に関する現状

 平成29年3月に決定された「働き方改革実行計画」においては、兼業・副業の普及促進がうたわれました。「副業・兼業は新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、そして第2の人生準備として有効である」とされています。

さらに、平成30年1月に厚生労働省が出した「副業・兼業の促進に関するガイドライン:では、「企業の対応」として、「原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当である。副業・兼業を禁止、一律許可制にしている企業は、副業・兼業が自社での業務に支障をもたらすものかどうか今一度精査したうえで、そのような事情がなければ、労働時間以外の時間については、労働者の希望に応じて、原則、副業・兼業を認める方向で検討することが求められる」とまでされています。

 現在、副業・兼業尾を認めていない起業は85.3%、推進はしていないが容認している企業割合は、14.7%となっています。

認めていない理由としては、①本業がおろそかになる、②長時間労働につながる、③労務、労働時間管理上の不安がある、等があげられています。

兼業・副業の意義、メリットは?

 兼業・副業については、隙間時間での小遣い稼ぎという印象を持たれることも少なくありません。無論、そういった形での兼業・副業も否定されるべきものではありませんが、起業にとっては、先の認めていない理由があっても容認するだけのメリットが見いだせれば、推進もしやすくなると思われます。

 兼業・副業の労働者個人、企業にとっての考えられるメリットをあげれば次のようになります。

個人にとって             スキルアップ、人脈の多様化、主体的なキャリア形成、自己実現、リフレクション(自身の見つめ直し)、転職や起業に向けたソフトランディング
企業にとってイノベーション、社外の知見獲得、労働者の自律性・自主性の涵養、人材獲得、リテンション(離職防止)、事業機会の拡大

労働時間の通算規定

 副業・兼業を推進する上で、大きな課題となっているのが、副業・兼業における労働時間の通算規定です。

 これはそもそも労働基準法以前の工場法からの規定です。工場法3条では「就業時間は工場を異にする場合と・・・これを通算す」とされ、昼間は甲工場出労働し、夜間は乙工場で労働するというような場合の労働者保護の徹底を期した規定でした。

 現在の労働基準法38条において、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については、通算する」とされています。

 通達において、「事業場を異になる」とは、事業主(会社)を異にする場合も含むとされています。つまり、副業・兼業においても労働時間に関する規制(法定労働時間、時間外割増賃金、時間外労働の上限規制等)は通算されることになっています。

例えば、同じ日にA株式会社で5時間、B株式会社で5時間働いたとします。この場合、その日の労働時間は10時間となり、8時間を超えた部分、2時間について時間外労働として割増賃金の支払いが必要となります。

では、A株式会社とB株式会社のどちらが割増賃金を支払う義務があるのでしょう。このことは「副業・兼業の促進に関するガイドライン」Q&Aでは、

「一般的には、労働契約の締結にあたって、当該労働者が田の事業場で労働しているか否かを確認した上で契約を締結すべきことから、通算により、法定労働時間を超えることとなる所定労働時間を定めた労働契約を時間的に後から締結した使用者が同法上の義務を負うこととなる」とした上で、「一方、通算した所定労働時間が既に法定労働時間に達していると知りながら労働時間を延長するときは、先に契約を締結していた使用者も含め、延長させた各使用者が同法上の義務を負うこととなる」とされています。

つまり、法知恵時間外労働分の割増賃金を支払うべき義務については、原則として当該労働者との労働契約を後から締結した会社が負いますが、労働契約を先に締結した会社も負うことがある、ということになります。結局は、どちらの会社も支払義務を負う可能性があります。

以上ことから、会社においては、兼業・副業をしている労働者との労働契約を他社より先に契約したか後に契約したかを問わず、当該労働者が他社で、いつ、どの程度の時間、働いたかを把握しなければならないことになります。

ただし、実際問題として、他社での労働時間を常に把握しておくというのは、現実的には非常に困難であると思われます。

先のガイドラインにおける企業の対応として、労働者からの自己申告により副業・兼業先での労働時間を把握することが考えられる、とされていますが、タイムラグが生じる等の疑問もあります。

労働安全衛生法では通算するのか?

 労働安全衛生法においては、時間外・休日労働時間数が一定以上となった労働者に対する、医師による面接指導実施義務等が定められていますが、同法には、労働基準法38条1項のように労働時間の通算制を定める規定や解釈通達は存在しません。したがって、労働安全衛生法では、労働時間の通算制はとられず、個別の会社単位で見るものと考えられます。

雇用保険の加入義務は?

 雇用保険は、適用事業所に雇用される労働者を被保険者としています、ただし、①1週間の所定労働時間が20時間未満である者、②同一の事業主に継続して31日以上雇用されることが見込まれない者については、被保険者となりません。

 つまり、1社で所定労働時間が20時間である労働者は、雇用保険の被保険者となりますが、2社でそれぞれ足して20時間以上となる労働者については、被保険者とはなりません。

社会保険の加入は?

 社会保険の適用に当たり、適用要件(大企業においては、1週間の所定労働時間が20時間以上等)は、事業所ごとに判断します。所定労働時間の要件も通算せずに個別に判断することになります。

就業規則の整備・規定例

 現状において、やはり労働時間の通算制の問題がありますので、副業・兼業のすべてを会社が把握することなく、手放しに容認するのは問題があると考えられます。

そのため、副業・兼業を容認するのであれば、許可制をとることが有効と考えられます。労働時間の通算の問題以外にも、兼業先の職種や業種等も会社にとっては、懸念すべきことになります。

厚生労働省のモデル就業規則においては、届出制の規定がなされています。

(副業・兼業)
 労働者は、勤務時間外において、他の会社との業務に従事することができる。
2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行う者とする。
3 第1項の業務に従事することにより、次の各号いずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。
①労務提供上の支障がある場合
②企業秘密が漏洩する場合
③会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④競業により、企業の利益を害する場合

「事前に届出る」という部分を許可を受けるものとするとしても良いと思われます。前述の裁判例のように、勤務時間外における労働者の副業・兼業は、原則として労働者の自由であることから、これを一律に禁止してしまうことはできないと思われます。

 またこれに加え、他社に雇用されてしまうと、労働時間の通算制と労働時間の把握の必要が生じますので、禁止事由として「他の会社に雇用される場合(は禁止)」という項目を付け加えた方が良いと思われます。

 さらに、一旦会社の許可が出た場合であっても、本業に支障を来してしまう場合などを想定し、「会社が許可した場合であっても、その後、前項各号記載の事情が生じたときは、会社は、当該許可を取り消し、又は許可の範囲を限定することがある」という規定を付け加えた方が良いと考えます、

また、これらの就業規則の規定に加え、「副業・兼業許可申請書」を作成・用意し、労働者本人から申請される方法をとります。

 この許可申請書や就業規則に規定した許可要件にあわせて、誓約書を作成し、本人から提出させることで、許可の要件等について本人に強く意識してもらうことができ、効果的です。