労働基準監督署の監督(検査・調査)には、定期的なものと臨時的なもの、さらには突発的なものがあります。
定期的な監督は当然として、臨時的なものや突発的な監督もあり、その中には従業員等からの申告により行われる「申告監督」というものがあります。
「うちの会社は、労働基準法に違反している」「うちの会社は最低賃金が守られていない」など、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法などに違反があるので、調査して是正してほしいと、いわば身内である従業員等からの申告に基づいて行われるのが「申告監督」と呼ばれるものです。
労働基準関係法令違反の申告とは、ある会社が「労働基準法などの法令に違反しているので、それを指導し是正してほしい」と従業員その他の者から労働基準監督署や各都道府県労働局に対して来所、電話、文書その他の方法で通告や依頼してくることをいいます。
申告は、告訴、告発のように犯罪の訴追を求める意思表示とは異なります。例えば労働基準法では、労働者が申告したことを理由として使用者が解雇、配置転換、賃金の引き下げなど不利益な取扱いを禁止し「労働者の申告権」を保障しています。
【労働基準法第104条】 (監督機関に対する申告) 事業場に、この法律又はこの法律に基づいて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁(労基署、都道府県労働局労働基準部等)又は労働基準監督官に申告することができる。 ②使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。 |
またこれに違反した解雇は無効とされています。これと同様に労働安全衛生法97条、最低賃金法34条なども労基署が施行事務を行うほかの法律にも、同じような規定が設けられています。
申告は、労働基準監督署がどこの事業場に使用されている労働者であるかさえわかれば、匿名でも受け付けて対応してもらえます。
労働基準監督署は、対象会社に申告監督と分からないよう、定期監督をよそおって臨検監督を行うなど申告労働者が不利益とならないように工夫します。
なお、労働基準監督署などの監督機関は、申告事案については優先的に処理する態度で臨んでいます。
申告するのは、法違反で被害を受けている労働者はもとより、本人でなくても、受理・解決してもらえます。最近では、夫の長時間残業や残業代不払いを気遣う妻や母親からの申告が増加しているといわれています。
労働基準法104条「この法律、またはこの法律に基づいて発する命令に違反する事実」とは、必ずしも犯罪を構成するような事実である必要はなく、その法律が規定する構成要件に該当する事実があれば足ります。
また、申告労働者自身がこのような違法な事実についての権利救済を目的とするものであるかを問いません。
「申告」とは、行政官庁に対する一定事実の通告であり、労働基準法の場合は、違反事実を通告して監督機関の行政上の権限の発動を促すことをいいます。
したがって、労基法104条では、このような申告に対し、監督機関がそれに基づき臨検監督を実施することを義務付けてはいませんが、監督機関としては、申告を受けた場合、当然これを迅速に処理解決するという態度です。
申告監督が行われる場合、2種類のすすめられ方があります。
1つ目は、申告監督の予告が行われる場合です。
申告労働者がすでにその事業場を退職している場合などは、通常、対象事業場の責任者に対して、労働者から申告があっとことを明らかにして、呼び出しが行われます。
呼び出しの文書には、用件とその根拠となる条文が記載されています。また、労働基準監督官が対象事業場を訪問調査する場合もあります。
次に二つ目の申告監督の予告が行われない場合です。
申告労働者が在職している場合などは、労基署は、定期監督を装って臨検監督を行います。
労働基準法は、事業場の労基法等の違反事実を労基署に申告した労働者に対して、使用者が不利益な取扱いをすることを禁止しています。
「申告したことを理由として」とは、使用者の単なる表面上の理由にとらわれず、その不利益な取扱いをするに至った経緯、他の労働者との対比等一切の要素を勘案して総合的に判断しなければなりません。使用者がその不利益な取扱いを行ったことについて、労働者が申告をしたという事実が決定的な動機になっている場合をいいます。
「不利益な取扱い」とは、法違反等を申告した労働者について解雇、退職勧奨、配置転換、降職、賃金引下げ、賃金不払い等で不利益な取扱いをすることをいいます。
労基法104条2項の規定に違反して労働者を解雇し、その他不利益な取扱いをすると、使用者は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(労基法119条1号)。また、本庄違反の解雇は、民法上においても無効となります。